「あなたは愛する人を救えますか」 |
河村循環器病クリニック 院長
河村剛史 |
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Vol.63:“いじめ”をなくす命の“絆”
AEDは、「命の教育」
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2006年9月に開催された「のじぎく兵庫国体」では、各競技場に400台以上のAEDが設置され、「AED国体」の名にふさわしい国体が実現した。
国体を契機に高等学校、中学校、小学校へのAED設置が広がり、学校内での心臓突然死に対する救急体制は急速に整備された。
20年前に兵庫県で始めた心肺蘇生法の市民普及啓発運動は、「お互いの命を守る社会づくり」を目指し、学校教育のなかで「命の教育」を教える唯一の手段と考えた。
当時、兵庫県では学校管理下での心臓突然死死亡は毎年、10数人あり、ワースト3に入っていた。平成2年(1990年)から県教育委員会も加わり、学校教育現場で心肺蘇生法を教える心肺蘇生法県民運動「あなたは愛する人を救えますか」が展開した理由でもある。
20年間、一貫して訴えた心肺蘇生法を通じた「命の教育」の真意は、「他人の命を守ることが、自分の命も守られている」人間愛に根ざしたものである。目の前で突然、人が倒れたなら、すぐさま意識の確認を行い、意識がなければ大声で救急車を呼び、すぐさま心肺蘇生法を開始する心肺蘇生法が「命の教育」なのである。
2006年は、学校内での“いじめ”と自殺が大きな社会問題となっており、“命”がキーワードになった。教育現場で色々な“いじめ”対策が論じられているが、いずれも管理者からの視点であり、“いじめ”をなくす学校教育を積極的に推し進めるには、教育者に「命の教育」の視点が求められる。
“いじめ”を受けたくないから“いじめ”側に加担する生徒の群集心理こそが、罪の意識を感じない日本人の気質である。“いじめ”から友人を守る積極的行為が自分も“いじめ”を受けない学校環境づくりになることを教える必要がある。
命と命をつなぎとめる“絆”は、自分から相手の命に“絆”の糸をつなぐ積極的行為を行ってこそ自分の命も他人の“絆”の糸がつなぎとめられているのである。
1人の命は個人一人一人に与えられたものではあるが、いかに多くの人たちの命とお互いに“絆”の糸をつなぎ合わせることが、人の一生であり、命(人生)が輝くことになる。個人の命は個人だけのものでなく、多くの命を支えていることを学ばなければならない。
最近の社会風潮は、無関心社会の中で、積極的に他人の命との“絆”を求めず、むしろ関わりを避けようとする人が多くなっている傾向がある。絶対的な“絆”としての家族愛ですら、時として崩壊した事件が多発している。
人間は社会の“絆”がなければ生きることはできない。子供にとって社会の“絆”は、家族の“絆”、学校生活での“絆”であり、“いじめ”は“絆”を剥奪する行為である。“いじめ”を受けた子供の周囲が、見て見ぬふりをする無関心社会であれば、命の“絆”強さを感じなければ容易に自殺という死を選ぶことができると考える。
“心肺蘇生法の心”とは、目の前で人が突然、倒れたなら、大声で「大丈夫か」と声をかける勇気である。何もしなければ死んでゆく命をつなぎとめる最初の積極的行為である。
たとえ見ず知らずの人であっても、最後の瞬間に命の“絆”の糸をつなぐ救命行為が心肺蘇生法であり、「お互いの命を守る社会づくり」となる。この社会理念を心肺蘇生法の講習を通して、命を救う勇気を持つ人間のすばらしさを生徒に教えることが「命の教育」である。
学校にAEDが設置されても、心肺蘇生法にて必死に命を救おうとする真剣さがなければAEDだけでは命は救えない。AEDが設置された今こそ、“AEDは「命の教育」”を生徒に教える絶好の機会と思う。
続く
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