「あなたは愛する人を救えますか」
河村循環器病クリニック 院長
河村剛史

Vol.64:AED除細動にはリーダーがいる:
AEDの落とし穴

  入手したAED救命例の中に、電極パッドを貼り付けて、「離れて! 離れて!」「ショックボタンを押してください」の除細動の指示が出ているにもかかわらず、除細動ボタンを押せなかった事例があった。パニックに陥った家族、同僚が傷病者から離れず、身体を揺り動かしたために、体動センサーは作動し、除細動ボタンを押すことができず、3回エネルギーの内部放電があった。救助に駆けつけた別のAED使用訓練者が、「離れて! 離れて!」と叫び、傷病者から家族、同僚を離し、4回目にようやく除細動ボタンを押し、救命できた。この間、3分20秒の時間ロスがあった。
  従来、除細動は医師のみが行うことができる医療行為で、除細動エネルギーは1200ボルト、20アンペアの電流が瞬間に流れ、救助者が傷病者に接触していると感電の危険性のある。医療の現場では、除細動は医師が除細動パドルを患者の胸壁に当て、モニター上で心室細動を診断し、周りの救助者の安全確認を行ってから除細動ボタンを押している。
  AEDは心室細動を自動認識し、除細動エネルギーを自動充電する機器であるが、最後の除細動ボタンは手動で押さなければならない。除細動時の高圧・高電流からの救助者の安全を守る手段は、AEDから音声で「離れて! 離れて!」と指示し、救助者は傷病者から救助に参加している他の救助者、家族、同僚が離れていることを確認することである。
  AEDは、除細動ボタンを押す時に体動センサーが体動をキャッチすれば、放電しない安全装置が備わっている。医師、訓練された救命士だけが使用できたAEDが、たとえ訓練を受けていない一般人にも使用できるようになった理由である。
  別の見方をすれば、「離れて! 離れて!」と音声指示を発し、除細動放電ボタンを押しても体動センサーで体動がないことを確認してから放電する仕組みになっている。したがて、パニック状態で傷病者に救助者、家族、同僚が触っている場合には、除細動はできないのである。
  AEDは2回、「離れて! 離れて!」の音声指示がある。最初の「離れて! 離れて!」は、心室細動の自動認識の時に体動による誤認識を防止するためで、2回目の「離れて! 離れて!」は、救助者、周りの人を高圧・高電流から身を守るためである。
  AEDの講習会で指導者は、受講者に「離れて! 離れて!」の音声の重要性を充分に理解してもらう必要がある。「離れて! 離れて!」の音声指示に対して、救助者は、大きな声で「離れて! 離れて!」と叫び、周囲の人は全員、「離れて! 離れて!」を了解のサインとして「ホールドアップ」の両手を上に上げたサインで答える。救助者は、そのサインを確認して除細動ボタンを押す。
  AEDを使用する時に、やはり、AED操作を充分に習得し、自信を持って、周囲の人に危険回避の指示を出せる人が必要である。


続く

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