「あなたは愛する人を救えますか」
河村循環器病クリニック 院長
河村剛史

Vol.13:小学校を中心とした地域づくり

  毎年7月のプール開きの時期になると姫路市立安室東小学校に心肺蘇生法の講演に行く。校長先生の平野先生とは10数年来のお付き合いで、小学校PTAが担当する「プール当番」のあり方を共に考え続けている間柄です。夏場の小学校のプール開放は、通常、PTAの自主管理で行われており、プールでの水難事故の責任問題から取りやめる小学校が最近、多くなってきている。
  平野先生が新校長として赴任した当時、PTAとの話し合いの中で毎年伝統的に行われている児童の2kmの遠泳を取りやめる話や夏場のPTA管理のプール開放も取りやめる話が持ち上がっていた。平野先生は、正しい「プール当番」のあり方は、心肺蘇生法の技術を身に着けた保護者が水着を着て、生徒がプールの中で溺れていないか、四六時中プールサイドを歩き回ることであると主張し、前任校では心肺蘇生法の講習会と保護者のプールでの救助訓練を行っていた経験があった。結論を出す前に今年だけでも、是非、本校においても心肺蘇生法の講習会を実施できるようにPTAを説得した。
  その説得が効を奏し、5年目の現在では、250名の保護者が25体の訓練人形を使って心肺蘇生法の講習会を開催するまでに発展し、隣接の中学校の生徒、帰宅途中の児童も混じった混沌とした楽しい講習会が実現した。プールでの救助訓練では、6年の児童3人がプールの真中でブロックを抱えて実際に沈み、保護者の3人が飛び込んで3人の児童をプールサイドに引き上げる訓練を行った。子供の訓練人形を沈め、2人ペアで救助し、実際に救急車を呼び、救助活動を見せるでデモンストレーションも行った。夜の部では、昼間来れなかった父親150名が体育館で心肺蘇生法の訓練を受けた。
  「お互いの命を守る社会づくり」を実現するためには、地域に密着した住民による心肺蘇生法の普及が不可欠である。阪神・淡路大震災の時に昔通った小学校に避難する帰巣本能的な行動が見られたように、小学校区は地域住民の協力し合える最小単位なのである。小学校6年間を通して、同級生との交わり、保護者同士の交わりが地縁を生み出すのである。子供を介して同じ校区内の保護者が小学校の活動を通して交流する場が今後の地位づくりの基本となる。  今年の春に用水路に落ちた人を校区内保護者のチームワークで救助し、救助者に与えられる「のじぎく賞」の表彰を受けた。毎年の恒例になった保護者を対象とした心肺蘇生法の講習会の開催は、「お互いの命を守る地域づくり」に役立っているのである。また、PTA活動は、小学校の全教室にパソコン・ネットワークづくりをするためにあまったパソコンをかき集め、保護者の専門職の技能を余暇に使って子供の教育環境整備にも力を発揮した。
  神戸須磨・友が丘事件の犯人が捕まっておらず、周辺自治会が自主警戒体制を取っている最中の1997年6月8日に西区学園東町7丁目自治会で心肺蘇生法の講習会を行った.心肺蘇生法の講習を親子で受けることにより親子の絆を深める試みであり、当時の地域での命の危機感喪加わって多くの親子の参加を得た。しかし、3年ぶりに再度、同じ自治会から心肺蘇生法の講習の依頼を受けたが、依頼者の地域づくりの情熱とは裏腹に、以前に見られた「命の危機意識」はなく、発展性のない講習会であった。ここに自治会活動の難しさがあり、多様化した地域住民の心を1つにまとめる共通理念なしには地域づくりは出来ないことを実感した。
  今後の地域づくりは、小学校のPTA活動を中心に、同じ小学校区内の子供と親の2世代においてまず、同世代の人間関係を深め、次いで2世代間の交流を図るためにPTA活動を通じて共通の思い出を作る共有感が必要である。これが「地域が子供を育てる」という社会教育の基盤になると信じている。多様化した保護者の価値判断のなかで、「お互いの命を守る地域づくり」こそが唯一の共通理念になりうるものである。

 続く
 


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