「あなたは愛する人を救えますか」
河村循環器病クリニック 院長
河村剛史

Vol.47:これからの心肺蘇生法は、"AED First"

  目の前で人が倒れたなら、すぐさま、「大丈夫ですか!」と声をかけ、頬や肩を叩きながら意識の確認を行う。意識(反応)がなければ、すぐさま、「救急車を呼んで!」、「AEDを持って来て!」と叫び、AEDが来るまで、ひたすら心臓マッサージだけを行う。AEDが到着すれば、AEDの音声指示に従って、パッチ電極を右前胸部と左側胸部に貼り付けさえすれば、AEDが心室細動の有無を自動解析し、心室細動であれば自動的に電気充電が行われる。後は、除細動ボタンを押すだけである。これが、救急隊が到着する前に行う、これからのAEDを使った心肺蘇生法"AED First"である。
  米国シカゴのオヘア空港には、各トイレの前に41台のAEDが設置されている。1999年6月1日から2001年5月31日までの2年間に21例の心停止患者が発生し、18例(85%)が心室細動(VF)であった。この内、16例に対して グッド・サマリタン ( 旅行者、空港職員ら )がAEDによる除細動を行い、2例がAED訓練者が行った。11例(61%)が蘇生(8例が病院到着前に意識回復)、6例が非訓練者であった。1年生存率は10例(56%)であった。
  オヘア空港では、AED設置にあたり空港職員にAED取り扱い講習を行っていたが、実際に現場でAEDを使用したのは、ほとんどがAED講習会を受けていない素人の旅行者であり、空港職員であった。見方を変えれば、AEDの取り扱いがはじめての人でも緊急時に使用できる機器であると言える。AED取り扱い規則上では違法であるが、米国では善意を持って行ったことに結果の如何にかかわれず罪に問わないというグッド・サマリタン法があり、一般市民によるAED除細動の普及の大きな力になっている。
  毎年、兵庫県立健康センターに実習に来る医学部学生に心肺蘇生法の講習を行っているが、見たことも触ったこともない学生にいきなりAEDによる除細動を指示した所、音声指示に従って容易に除細動を行うことができた。むしろ、パニック状態に陥った時に、AEDからの適切な音声指示は救命者を落ち着かせる効果がある。米国では、小学6年生にAED取り扱い訓練を行い、間違いなくAED操作ができたとの報告もある。
  兵庫県医師会では2001年度から医師会員を対象としたAED指導者講習会を開催し、AEDの積極的な購入を勧めている。現在、150台のAEDが診療現場に設置されている。兵庫県下で行われるスポーツイベントに出務する医師はAEDを携帯することにしている。医師が率先してAEDを購入する動きは、全国の医師会にも波及している。
  高円宮殿下の心臓突然死、福知山マラソン、名古屋マラソンの心臓突然死事故があった翌日の2002年11月24日に開催された尼崎市シティーマラソンでは、65歳の男性がゴール直後に倒れ、心停止状態であったが、救命することができた。安全管理体制を担当した尼崎市医師会医師14名の内、10名が10台のAEDを携帯して等間隔にマラソンコースに立ち、緊急に備えていた。
  ゴール直後の心停止に対してAEDを装着する前に、幸いにも前胸部強打法により正常の心拍に戻り、事なきを得た。病院入院後の冠動脈造影では冠動脈狭窄、心筋梗塞の所見はなく、心臓突然死のもうひとつの原因である心室性不整脈からの心室粗動(心室細動の一歩手前)が起こっていたものと考えられた。こうした中、今年の3月には、日本陸練の医事委員会は、スポーツイベント主催者はAEDを常備すべきであるとの提言をし、マラソンなどのスポーツイベントにおいて、主催者側がAEDを常備することが当たり前になりつつある。
  AEDの普及は、目の前で倒れた意識のない人に対して、まず、心室細動の可能性を念頭におく緊急時の意識改革であり、心室細動だけはAEDを使用すれば一般市民でも救命できる唯一の心臓病であることの啓発活動である。

  続く

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