米国心臓協会(AHA)心肺蘇生法国際ガイドライン2000では、心停止後、除細動が1分遅れるごとに救命率が7%〜10%すると明記されており、心停止後5分以内にAEDを使用した一般市民による早期除細動を行える体制づくりを目指し、目標救命率を50%とした。この救急体制づくりは、心臓突然死の原因の大部分は、心室細動であるとの大前提に立っている。
1998年から2年間に大阪府内に発生した病院外心停止症例10,139例のデータを見ると、男性では50歳代、60歳代、70歳代の病院外心停止が多く見られ、女性では80歳代まで年齢とともに増加している。早期除細動の対象となる救急隊到着時の現場心電図が心室細動の発生数を見ると、50歳代、60歳代、70歳代の男性に極めて多く、特に50歳代の男性は、同年代の女性と比較して6倍の発生頻度の差が見られた。こうしたデータから、AEDによる早期除細動は、50歳から60歳代の働き盛りの男性をターゲットにしたAEDを用いた心臓突然死対策といえる。
最近、AED導入の先進国である米国のミネソタ州オームステッド郡において、1990年11月〜2001年1月に院外で心停止を起こし、心室細動に対する早期除細動を受けた全患者の転帰が報告された。世界的に有名な病院メイヨー・クリニックがあるこの地域は、もともと救急体制が整った所で、AED導入前の生存退院率は約27%で高い水準にあったが、AEDの導入より更に42%まで高めることができた。AEDを受けた200人中、145人(72%)はその場で心拍が再開し、病院に運ばれた。生存退院した84人(42%)のうち5人には神経学的な障害が残ったが、79人は神経学的な合併症がなく退院できた。長期生存者に対してその後の健康関連のQOL(生活の質)を調べたところ、同じ年齢・性別の一般米国人よりも劣っていたのは活力に関する項目だけで、全般的健康度や身体機能、精神状態などでは違いが認められなかった。
このように心臓突然死からの生存者の大多数は仕事に復帰し、それらの人々のQOLは一般集団のQOLとほぼ同等の生活を過ごすことができる。さらに、再発の恐れがある心臓突然死からの蘇生患者に対して、超小型の植え込み型除細動器(ICD)の体内植え込み術が日本でも1996年から医療保険で認められており、死の恐怖からも開放された社会生活を過ごすことができる。
ICDは1980年に世界で最初の体内植え込み術が行われた。現在では世界で年間約10万例(米国8万例)の植込み術が行われており、心臓突然死患者の究極の治療手段になっている。年々、医療技術の開発により小型、軽量化が進み、現在では通常のペースメーカーと同様の手技で簡単に植え込むことができる。体内に植え込まれたICDは、死に至る心室細動、心室頻拍を自動認識し、直ちに自動的に除細動を行い、100%に近い救命率を誇っている。
AEDは、Automated External Defibrillator (自動体外式除細動器)の名の通り、心室細動を自動認識し、音声による指示があれば通電ボタンを押すだけの簡単な操作の装置である。すでに治療実績のあるICDの不整脈自動認識機能をAEDに取り入れたものである。心肺蘇生法国際ガイドライン2000は、心室細動の自動認識機能の精度に絶対的信頼を置き、一般市民も使用できるAED使用を心臓突然死に対する救命手段の基本にすえたのである。
日本において、1999年に全国の救急隊員が搬送した心停止患者数は83,353人で、その内救命されたのはわずか3%に過ぎない。毎年およそ8万人の人が突然死で死亡していることになる。ある統計では、救急隊員により心臓突然死と判断されたのは44%との報告があり、日本における心臓突然死数は、およそ3万5000人と言うことになる。毎日、100人近くの人が心臓突然死にて死亡していることになる。
心臓突然死の原因の大部分は、心室細動によるもので、傍にいる人がすぐさまAEDにて除細動を行えば、救命できるのである。まさに心室細動は市民が救える唯一の心臓病である。
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