「あなたは愛する人を救えますか」 |
河村循環器病クリニック 院長
河村剛史 |
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Vol.51:AEDによる早期除細動は、脳蘇生が期待できる。
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米国心臓協会心肺蘇生法国際ガイドライン2000では、心臓突然死の原因は心室細動であるとし、すぐさま、AEDによる除細動が唯一の救命法とした。心室細動は、心臓からの血液の拍出がなくなる、いわゆる「心停止」の状態に陥る。心停止後、1分除細動が遅れるごとに10%、救命率が減少すると明言している。現時点での欧米における救命率は25%前後であることから、一般市民によるAED使用(パブリック・アクセス除細動、PADという)により50%の救命率向上を目標に掲げている。ちなみに、日本の現在の救命率は3%(1999年全国調査)である。
血液循環がなくなり、酸素欠乏(虚血という)に陥った場合、人間の臓器の中で脳は、4分で脳細胞が回復できない致命的な組織障害(不可逆的変化という)を起こす。一方、心臓は、心電図上4分で波形が粗い心室細動から細かい心室細動に変化し、さらに時間が経過すると一見、心臓の電気的興奮がなくなった(心静止という)状態になるが、組織的障害は30分以上経過して起こる。したがって、心停止から4分で脳は致命的障害が発生するが、心臓は30分以内であれば組織障害なく心拍を再開することができる。
AEDの心室細動の自動認識プログラム(検出閾値)は、心室細動の波高(波形の振幅)が0.08mV以上の場合に除細動可能な心室細動と判定し、自動的に除細動のための電気充電が行われる。先程、心室細動の波形が時間経過に伴って、振幅の大きい粗い細動波形から細かい細動波形に変化することを述べたが、
AEDが認識する心室細動の波形は、心室細動発症から4分以内に見られる波形である。すなわち、4分以内の脳虚血時間であれば、除細動により心拍が再開し、血液循環が再開されれば、致命的な脳障害が防げることを意味する。
心停止後すぐさま心肺蘇生法を行って、脳と心臓にわずかでも血液を循環させておれば、脳細胞の障害を遅らすことができ、かつ、心臓においては心室細動が粗い波形のままで維持され、AEDの自動認識プログラムが作動して除細動が可能となる。別の見方をすれば、AEDが除細動を認識した場合には、心停止後の経過時間にかかわらず、除細動が可能であるばかりでなく、脳循環は維持されている証でもあり、脳蘇生も期待できるのである。
以上のことが、国際ガイドライン2000において、脳障害を起こさずに救命するためには、心室細動に対して心停止後5分以内にAEDによる早期除細動を行うことを推奨している理論的根拠でもある。もし、AEDが身近にない場合には、AEDが到着するまで心臓マッサージのみを行っておれば、AEDによる除細動が8分以内であれば救命率は50%を期待できる。
日本においても、2003年4月から救急救命士の医師の指示なし除細動ができるようになった。大阪府域内救急隊の除細動施行の実態調査では、救急コールから現場到着まで平均5分、心肺蘇生法開始が平均7分、除細動施行が平均15分となっている。したがって、新体制において時間的には、救急コールから7分前後の医師の指示なし除細動が可能となった。
しかしながら、一般市民が心停止の発生から119番への通報時間のことを考慮にいれると除細動までの実時間はさらに延長する。除細動までの時間の短縮には、一般市民に対して「意識がなければ、すぐさま救急車を呼んで、AEDを持ってきて」が常識化することが必要である。
今後のAEDの普及には、公共施設などの法的な設置義務だけでは不充分で、一般市民においてAEDが消火器と同じ程度の認識を持つような啓発運動が必要である。この啓発には、16年前に心肺蘇生法の実技講習会を通して「心肺蘇生法」の名前を広めたように、AEDを用いた心肺蘇生法の実技講習会を開催して、まず、「AED」の名前を広めることが第一歩であると考えている。
続く |
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