今回は、平成15年11月10日に放送されたNHK教育テレビ「視点・論点」で主張した内容の要旨を紹介する。
私が米国に留学中であった、1986年1月22日に行われたダイエー対日立のバレーボールの試合中にフロー・ハイマン選手が突然倒れ、試合が中断することなく、試合会場から担架で運び出されるテレビニュースが米国で放送された。この時、ニュースを見ていた米国人から、「なぜ、日本人は心肺蘇生法をしないのか」との批判を受け、目の前で人が突然、倒れた時、すぐさま救急車を呼び、心肺蘇生法を行うという、米国では当たり前のことが、日本ではなされてないことを痛感した。
米国では、30年前から中学1年生に保健体育の授業で心肺蘇生法を教えている。目の前で人が倒れたら意識の確認をし、意識がなければ、誰に相談することなく、救急車を呼びなさいという、「命の教育」が、今の日本人に欠けているのである。
帰国後、兵庫県において、この「命の教育」の重要性を伝えるために、学校を中心に心肺蘇生法の普及を開始した。その後、全国の高等学校教育、自動車学校で心肺蘇生法が教えられるようになり、日本でも心肺蘇生法の名前だけは知られるようになった。日本の心肺蘇生法普及は、ハイマン事故からスタートしたと言っても過言ではない。
こうした中、2002年11月21日の高円宮さま、23日の福知山および名古屋マラソンでのスポーツ中の心臓突然死事故が相次いで起こり、この事故をきっかけに心臓突然死の原因である心室細動に対して自動体外式除細動器(AED:Automated
External Defibrillator)を使用した早期除細動を行うことが必要であるとの社会的認識が高まった。この背景には、2000年8月に全世界に向けて発表された米国心臓協会の心肺蘇生法国際ガイドライン2000が、日本の救急医療体制に大きな影響を与えている。
国際ガイドライン2000では、心臓突然死の原因は心室細動であるとし、そばにいる人がすぐさまAEDによる除細動を行うことが唯一の救命法であると明記されている。心停止後、1分除細動が遅れるごとに7%〜10%、救命率が減少すると言われ、脳障害を起こさずに救命するためには、心室細動に対して心停止後5分以内にAEDによる早期除細動を行うことが必要である。もし、AEDが身近にない場合には、AEDが到着するまで心臓マッサージのみを行っておれば、除細動が8分以内であれば救命率50%を期待することができる。
2003年4月から、救急救命士法が改正され、救命士が現場で医師の指示なにし除細動を行うことができるようになった。しかし、救命士が到着して除細動を行うまでの所要時間は、平均8分である。それでは手遅れになる確率が高く、救命士が到着するまでに一般市民は何をすべきか。それが心肺蘇生法である。さらに、2004年からは、一般市民もAEDを使用できるようになる。まさに心室細動は一般市民が救える唯一の心臓病と言える。
今後のAEDの普及啓発においても、心肺蘇生法の場合と同様に「意識の確認」が最も大切なポイントである。目の前で人が倒れたなら、すぐさま、「大丈夫ですか!」と声をかけ、頬や肩を叩きながら意識の確認を行う。意識(反応)がなければ、すぐさま、「救急車を呼んで!」、「AEDを持って来て!」と叫び、AEDが来るまで、ひたすら心臓マッサージだけを行う。これが、救急隊が到着する前に行う、AEDを使った心肺蘇生法"AED
First"「まず、AED」普及運動ある。
心肺蘇生法は「命の教育」であり、「お互いの命を守る社会づくり」が、これからの高齢社会を支える重要なキーワードになると考えている。
続く |