2004年4月から医師の卒後臨床研修の必修化(義務化)がスタートする。医学部を卒業し医師国家試験に合格した医師は、これまで大学の医局に入局して医局単位で決められた研修医プログラムを受けていたが、どうしても入局した医局の専門分野に偏った研修となっていた。
新しい卒後臨床研修必修化の制度では、内科や外科、救急・麻酔科、小児科、精神科、産婦人科、地域医療・地域保健などを研修医が一定期間ごとに回ることになっている。特に、4ヶ月間は救急医療領域の研修を行うことになっており、医師としての基本に心肺蘇生法、AEDの習得が義務化されたことは画期的なことである。
米国心臓協会(AHA)心肺蘇生法国際ガイドライン2000の発表以来、日本においても救急医療体制の急速な進展が見られ、2003年4月からは救急救命士による医師の指示なし除細動が実施され、2005年7月をめどに気管挿管の実施などが予定されている。こうした背景には、心臓突然死の原因である心室細動に対する救命体制づくりに対して明確な国際統一の指針が定められたことが大きい。
これに付随したもうひとつの動きとして、二次救命処置(ACLS : Advanced Cardiovascular Life Support)の研修会が各地で開催されるようになったことである。兵庫県医師会では、3年前からAEDを使用したBLS(一次救命処置)の指導者講習会を開催しているが、ACLS研修会は、病院内に傷病者が搬送された後の病院内救急処置やり方の標準化を目指したものである。
ACLSプロトコールは、救急医療専門医、循環器専門医のみならず、二次救急医療機関で救急に携わる一般医師も対象にした心臓突然死に対する救命処置の標準化プログラムである。卒後臨床研修の必修化科目にも組み入れられており、今後、救命処置の習得は医師の基本技術として当たり前と見なされる時代となる。
心肺蘇生法の普及、さらに今後のAEDの普及は、「お互いの命を守る社会づくり」を社会の共通通念にする社会啓発である。この通念の醸成には、地域住民一人一人に対して、まず家族愛に訴え、隣人愛、職場愛、地域愛、社会愛、人間愛へと"愛"の輪を広げていくことである。
心室細動が原因である心臓突然死の究極の救命手段は、「心室細動は、地域住民が救える唯一の心臓病である」ことを啓発することである。そのためには、地域住民自身がAEDを使用し、「お互いの命を守る社会づくり」に積極的に参加することが求められる。
本来、救急医療は地域単位で考える問題であり、「他人の命を守ることが、自分の命も守られている」との社会通念のもとに地域住民が積極的に参加する体制づくりである。
地域の救急医療体制を確立するには、地域医療に携わる医師が先頭に立って地域住民に対して「自分の命は誰が守るのか」の問いかけが必要である。医師は、地域の救急体制を確立するためには何が必要かを提示し、この達成に向けて地域関係者との調整能力が試されている。
心肺蘇生法を習得した医師は、誰よりも早く急変をキャッチし、命の危機を感じる人間になれる。さらに、「命を感じる医師」になるには、医師である前に一人の人間として社会に何ができるかを考える視点を持つことが大切である。
病院の外に出て地域住民に心肺蘇生法の普及活動を行い、"命の尊さ"を訴える姿勢こそが、「命を感じる医師」になる第一歩であり、地域住民に「安心を与える地域病院」として信頼を得ることにもなる。
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