「あなたは愛する人を救えますか」
河村循環器病クリニック 院長
河村剛史

Vol.59:「兵庫県AED普及戦略2006」の提案

  2006年に開催される“のじぎく兵庫国体”では、公式競技および公開競技が県下のすべての市町(85市町、140会場)で行われるのが特徴で、阪神淡路大震災の復興支援の感謝をこめて全県民が国体を支える「する、見る、支える」を標語に掲げている。しかしながら、近年の競技スポーツ中の死亡事故が散発している中、競技選手のみならず他県からの観客も含めた多数の参加者に対して不測の事態に対処するには、競技会場が全県に分散していることが救急体制の面では不利な条件となる。
  この不利な条件を有効に生かすには、これを機にすべての競技場において「AEDを中心にすえた救急体制」を確立するであり、同時に全県規模のAED普及の好機と考える。そのために県下の郡市区医師会が積極的に関与した救急体制づくりが必要である。
  兵庫県医師会では、当初、各競技会場に出務する医師がAEDを携帯することを想定し、2006年までの300台のAEDの購入目標とした。2001年8月から医師会員を対象にAED指導者講習会を開催し、将来の一般市民に対するAED講習会の講師として現在まで480人のAED指導者を養成し、2004年度末には約800人となる。AED指導者講習を受けた医師会員の約半数が、日常診療における緊急時の備えとして250台のAEDを購入しており、当初の目標達成は間近である。
  そこで、「兵庫県AED普及戦略2006」の提案であるが、まず、県下の小中高等学校にAEDを設置し、「生徒の命を守る体制づくり」からスタートする。2006年の国体開催時には、競技場の近隣の学校からAEDを貸し出すようにすれば、各会場に20台のAEDを設置することは可能であり、予算の有効かつ効率的な使い方になる。
  兵庫県では学校管理下での心臓突然死は、毎年、5人〜10人亡くなっており、全国的には80人〜100人見られる。これらの生徒はAEDにより救命することができる。最近、マスコミに取り上げられた少年野球でボールを胸に受けて起こる心臓震盪も救命できる。
  2003年6月に非医療従事者によるAED使用を求める構造改革特区申請を行った理由は、まず兵庫県のモデル4都市の学校にAEDを設置することを想定したものであった。1990年からスタートした兵庫県の心肺蘇生法普及県民運動は、県教育委員会が中心となって学校教育に取り入れたものであり、47都道府県の中で心肺蘇生法普及を教育委員会が取り組んだのは兵庫県以外には見当たらない。このことが、学校現場にAEDを設置するなら兵庫県が最も可能性が高いと考えたからである。
  兵庫県には、小学校858校、中学校403校、高等学校231校、高等専門学校2校 計1489校があり、この構想が実現すれば、“のじぎく兵庫国体”に出務する医師の携帯AEDの台数も含めて1800台の「AEDを中心にすえた救急体制」が完成する。
 特に、小学校区は災害時の安全・安心拠点であり、同時に生涯スポーツを目的とした「スポーツひょうご21」に基づき地域型スポーツクラブが設置されており、災害時対応のみならず地域における高齢者スポーツの安全対策としてAEDを設置することが求められる。
  2004年7月に一般市民のAED使用が認められたことから、各競技場を管轄する医師会が中心となって競技会場の関係者や運営ボランティアを対象にAED講習会を開催すれば、全県規模でAEDの普及が一気に加速する。また競技場ごとの緊急時の対応マニュアルの確認にもなる。山間部の競技会場で緊急事態が発生しても、救急ヘリコプター(ドクターヘリ)にて30分以内に現場に到着することが可能となり、2003年4月に開設された神戸の災害医療センターに搬送することができる。
  2006年“のじぎく兵庫国体”の開催を通して、兵庫県が日本のみならず全世界に「お互いの命を守る社会づくり」をアピールする絶好の機会と思う。

 続く

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