「あなたは愛する人を救えますか」
河村循環器病クリニック 院長
河村剛史

Vol.61:AED普及啓発は真剣勝負の世界である
  心肺蘇生法国際ガイドライン2000(G2000)では、「心臓突然死の原因は心室細動であり、その唯一の救命手段は早期除細動である」と明記され、AED(自動体外式除細動器)が普及シンボルとなった。究極の救命手段は、一般市民がAEDを使用するパブリック・アクセス除細動(PAD)であるとした。
  日本において2000年の段階では、医師法17条により除細動は医師のみに認められた医療行為であるために、AEDの普及のきっかけにはならずG2000の中で発表された“循環のサイン”を取り入れた一次救命処置(BLS)の手順の変更にとどまった。 
  2002年11月、高円宮殿下のスポーツ時の心臓突然死、次いで福知山、名古屋でのマラソンにて3人の心臓突然死が話題となり、スポーツ時の心臓突然死の原因が心室細動であり、その対策にAEDが必要であるとの社会的認識が高まった。
  2003年6月に筆者らが構造改革特区に「非医師による自動体外式除細動器(AED)の使用」を提案したことを受けて、厚生労働省は2003年11月に「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用のあり方検討会」がスタートし、遂に2004年7月1日に一般市民によるAED使用が認められた。 
  G2000では、心室細動の救命にはAEDによる除細動が不可欠で、1分除細動が遅れるごとに救命率は7〜10%減少する統計学的事実を世界に示した。「地域社会は究極のCCU(冠疾患集中治療室)」であると明記し、地域住民の命を守るのは地域住民であり、AEDがそれを可能にした。
  しかし、米国においてG2000以後、心臓突然死に対してAEDを優先的に使用すればよいとの考えが横行して心肺蘇生の施行率が低下し、AED導入後の方が救命率は減少する結果となった。
  G2005では、こうした反省からG2000のAEDによる除細動を最優先する方式から1996年AHAガイドラインの原点に戻り、心肺蘇生法を基本に据えたAED救命法に変更された。
  2003年7月1日に厚生労働省から出された通達文には「AEDによる除細動はあくまで医療行為である」と書かれている。いかに、AEDが間違って正常者に除細動を行うことがない安全機器であっても、その行為は人の命を救う医療行為である。この医療行為の重みをAED講習会で参加者に伝える力量がAED指導者に求められる。
  一部の医師や救急関係者にはAEDは電極パッドを胸に貼り付けて、通電ボタンを押すだけで救命できる簡単な機器であることを強調しすぎている。確かに、通電ボタンを押せば命は助けられることは事実であるが、ともすればコンピュータゲームのリセットボタンと同じことにならないだろうか。
  米国のカジノのガードマンが3分以内にAEDの除細動ボタンを押しで74%の救命率が得られた報告があるが、これは限定された場所において組織化された救助者教育がなされた場合であり、地域社会一般に当てはまるものではない。
  目の前で人が突然倒れたなら、意識の確認を行い、意識がなければ、すぐさま「救急車を呼んで!」、「AEDを持ってきて!」と叫ぶことができるがが「命の教育」である。
  AEDの普及啓発は、AEDが手元にあれば救命できる真剣勝負の世界である。日本人には、目の前に倒れた人を必死に助ける勇気が求められる。欧米の心肺蘇生法の普及には、基本理念にキリスト教思想が根付いており、「命は神のもの」と教育されて人にとって、人の命を必死に助けるのは当然の行為である。
  今後のAED普及には、AED指導者は講演の前の動機づけに「命を語る」人でなければならない。

  続く


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