「あなたは愛する人を救えますか」
河村循環器病クリニック 院長
河村剛史

Vol.68:
死線期呼吸は低酸素脳症の最後のあがきである

 自然呼吸は、延髄の呼吸中枢にてコントロールされています。
 延髄には中枢性化学受容器があり、血液のPHの変動に反応しています。身体には酸・塩基平衡があり、血液PHを7.4に保つ機能が備わっており、呼吸調節が重要な働きをしています。
 肺呼吸により空気中から血液内に酸素を取り込み、末梢組織から産生された炭酸ガスを排泄しています。呼吸換気量が減少すると、血液は酸性に傾き、化学受容器が反応して呼吸数を増やし換気量を増やすことによりより多くの炭酸ガスを排出します。逆に、呼吸換気量が増加すると、血液がアルカリに傾き、化学受容器が反応して、呼吸数を減らし換気量を減らします。
 もう一つは大動脈弓、頸動脈球部に存在する末梢性化学受容器があります。呼吸状態が悪化し、肺からの酸素の取り込みが減少して血液の酸素濃度が低下した時、最後に低酸素そのものに反応する化学受容体です。
 心停止により脳血流障害が起こり、脳組織が低酸素状態になり、不可逆性変化を起こす直前に見られるのが最後のあがき呼吸です。これが死線期呼吸の病態です。別名、下顎呼吸、あえぎ呼吸とも言われています。
 通常、心停止時、人工呼吸を行わない心臓マッサージでは、不可逆性低酸素脳症を起こさずに蘇生可能な限度時間は、心停止時の体内血液の酸素含有量から10分が限度と言われています.
  末梢組織では、酸素供給が停止する為に、嫌気性代謝により炭酸ガスの産生はなく、時間経過とともに血中酸素濃度の低下が起こります。呼吸中枢の中枢性化学受容器は作動せず、末梢性化学受容器が作動する血中酸素濃度低下に達するまでは呼吸刺激はありません。
 心停止者にあえぎ呼吸を認めた場合、不可逆性低酸素脳症になりかけており、有効な心臓マッサージだけでなく、人工呼吸による酸素供給がなければ救命は不可能です。


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