「あなたは愛する人を救えますか」
河村循環器病クリニック 院長
河村剛史

Vol.70:
「自力信念―めざせ100歳健康長寿」


生きる喜びを味わう「自力の信念」

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 1.はじめに
  人間は、生きる目標(生き甲斐、ビジョン)があれば寿命が尽きる天寿を全うできる。
  1996年に兵庫県立姫路循環器病センターから兵庫県立健康センターに転勤となった時の新たな目標は、「長寿の道は自立自尊」である。健康づくりの目標を病気から超越した姿、すなわち、いかなる病気があっても「80歳にして、2本足で立ち、好きな所に行ける自由度」を掲げました。
  2005年に河村循環器病クリニックを開業しましたが、開業理念に「健康は自らを知る、生きる喜び」を掲げ、日常の診療を通して患者に検査値から見た100歳長寿の条件を説明しています。
  現在、100歳長寿者は7万人に達し、今後も増え続けることが予想され、「100歳にして、健康長寿」が新たな目標となっています。
  100歳長寿を達成するには、加齢による筋肉低下との闘い、認知との闘いが課題となってきます。 ここに求められる条件は、
生きる喜びを味わう「自力の信念」が必要となります。

2.長寿の道は、「自立自尊」:筋肉鍛えて、血液サラサラ
  「長寿の道は自立自尊」を達成する手段に、「筋肉鍛えて、血液サラサラ」を掲げ、脊椎ストレッチウォーキングと““にがり水””を推奨しました。
  脊椎ストレッチウォーキングは、兵庫県において心肺蘇生法普及県民運動と同じく県民運動として普及に取り組みました。
  脊椎ストレッチとは、歩行時の姿勢を重視し、常に背筋を伸ばした状態を意識して歩くことでる。足の振出は、膝を伸ばして踵から地につけます。膝をしっかりと伸ばすことは膝関節周囲筋で膝関節を固め、関節障害を予防します。脊椎ストレッチウォーキングは、体軸を意識したバランス歩行と言えます。
  体軸を意識する手段として、「脊椎ストレッチマシーン」を導入しました。「脊椎ストレッチマシーン」は、スキーブーツをはき、逆さづりにして、反重力を応用して、姿勢筋をストレッチする装置です。若い施設利用者やアスリートには好評でしたが、中高齢者には、逆さづりにより脳血圧の上昇の危険性もあり、すべての施設利用者には適応できませんでした。
 
“にがり水”との出会いは心肺蘇生法の普及啓発の一環でした。当時、兵庫県立姫路循環器病センター救命救急センター長として心臓突然死に対する心肺蘇生法の普及活動「あなたは、愛する人を救えますか」を行っていましたが、同時に心臓突然死予防の啓発活動でもありました。1980年代には、心臓突然死の病名はなく、急性心不全として救えないものとしてとらえられていました。
  心臓突然死の原因として、急性心筋梗塞による心室細動であることが知られるようになり、目に前に人が倒れたなら、すぐさま「大丈夫ですか」と声をかけ、意識の確認を行い、すくさま救急車を呼び、心肺蘇生法を行う、今ではAEDにてその場で電気的除細動を行えば救える疾患となりました。
  救急救命センターでは、除細動を何度かけても心室細動のままである状態において、最後の手段として硫酸マグネシウムの静注を行っており、マグネシウムの重要性を認識しておりました。心室細動の予防に日頃からマグネシウム摂取が必要ではないかと感じていました。
  こうした折、塩で有名な赤穂化成株式会社から発売されている海洋深層水「にがり」(1t中10rのマグネシウム含有)を知り、心臓突然死予防に広く推奨するようになりました。
  高齢者に脳MRI検査を行うと、慢性虚血性変化として深部白質病変が認められます。脳表面上を走行している脳動脈から脳内に垂直に枝分かれした貫通枝が深部白質を環流しております。貫通枝には副血行路はなく、完全に詰まればラクナ梗塞と呼ばれる小梗塞が発症します。その原因に血小板機能亢進による血小板血栓が深く関わっています。
  “にがり水”のマグネシウムには、血小板凝集抑制作用があり、水分補給と合わせて血液サラサラ効果を期待できます。
  高齢者には、水分を飲む習慣がない人が多く、“にがり水”を1日1.5Lをこまめに点滴を受けているがごとく“点滴飲み”を心筋梗塞、脳梗塞予防に推奨しています。

3.人生100歳を全うするための65歳からのサルコペニア・認知症予防対策
  100歳以上(センテナリアン)の健康長寿を達成するには、時速2.8Km以上の脊椎ストレッチウォーキングを中心にすえた健康づくりが必須条件です。筋肉と骨を鍛えることが、サルコペニア・認知症予防となります。
  健康長寿とは、介護を必要としない生活ができることです。長寿の道は、「自立自尊」とは、いかに歳を取ろうが、自立とは2本足で歩け、自尊とは自分の行きたい所に他人の助けなして自由に行ける自由度を意味します。
  サルコペニア(筋肉減少症)、認知症は後戻りできない進行性の病態です。サルコペニア、認知症に陥る前段階のフレイル、MCI(軽度認知症)を警告と認識し、早急な対策を積極的に取り組まなければなりません。
  フレイルは筋肉の問題、MCIは脳細胞の問題ですが、意外な共通点があります。それは、時速2.8Km以上のスピードで歩行ができるかにて判断できるからです。時速2.8Km以上で歩くには、下肢筋力と脳内神経ネットワークが維持されていなければなりません。
  筋肉から分泌されるマイオカイン(カテプシンB)は、認知症の原因となる海馬の細胞の萎縮を防ぎ、細胞を増殖します。
  つま先をあげて踵から地に着ける脊椎ストレッチウォーキングは、骨を作る骨芽細胞を刺激し、オステオカルシンを分泌します。オステオカルシンはカテプシンBと同様に海馬の細胞を増殖する作用があります。
脊椎ストレッチウォーキングは、サルコペニアと認知症の単純明快な予防対策となります。

4.生きる喜びを味わう「自力の信念」    
  80歳にして「自立自尊」を達成できた人こそが、次なる目標の100歳長寿を目指すことになります。100歳長寿者は、100歳まで生きる目標を掲げ、天寿(自然死)を全うする「自力の信念」を持っている人を意味します。
  人間の寿命は、心臓の寿命で決まります。心臓の筋肉は、いかなる状況においても有酸素下に拍動し、全身の臓器の生命を維持しています。その心臓が脈を打たなくなる心静止が人生の終焉となります。この瞬間が寿命がつきることになります。
  心静止は昼間の交感神経活動時ではなく、夜間の深く眠り込んだ副交感優位の時期に起こります。この死に方こそが、苦しくもなく眠ったまま天寿を全うできるのです。
 今の我々は、明日があることを疑いもせずに眠りについていますが、80歳を過ぎてからは、明日がないかもしれません。だからこそ明日を考えず今日1日を悔いなく精一杯生き抜き、その日の生きる喜びを感じる姿勢が求められます。
  「よく生きることが、よく死ぬこと」であり、「自力の信念」を日々、実行できてこそ到達できる「生きざま」の境地と思います。

続く

Copyright(c) Tsuyoshi Kawamura, M.D.